AMOSHI/築町/MAP



2006年夏ごろ閉店。



 重厚な扉を開けると高い天窓から取り入れられた清潔な明かりが白壁と漆黒の大柱のコントラストを照らし、そこに宿った空気の違いがこれから始まる饗宴の幕開けを予感させる。国道に面しているとは思えない濡れた佇まいの中庭を望む窓は枠が無く、何気なく散策に降りてみたい造りである。最初から厨房を一覧できる半端でない厚みのカウンターか、贅沢な間隔で配されたテーブルに座るか悩まされる。
 ワインの呼気を存分に吸い込んだメニューから本日のコースをチョイス。黒板に書かれた今一番の季節先取りのメニューにも目が移る。緊張感のある厨房へオーダーが通ると、シェフは一斉に持ち場に散った。故郷から遠く船に揺られアジアの端で由緒正しく封を抜かれたワインは煌きのグラスの中で冥利を尽くすかのようにキャンドルの光に揺れる。
 冒頭、タコのマリネで味覚のピンを突かれ、もう戻ることの出来ないカラダへの誓約を受け入れつつ皿を汚す。メインのローストが来る頃合には大衆の味覚の幅ではなく、個人の持つ資質としての味覚に狙い澄ます料理がこの世に存在することを存分に知らされ、確実にその狭い点に味粒を当て続ける腕前に恐れ入る。
 何のためらいもなくこの店に行けるようになったら「オトナ」を自称してもいいのかもしれない。


タイのポワレ

オムライス